保険代理店経営者へのインタビュー、第三弾の今回は株式会社A.I.P代表取締役の松本社長にインタビューさせていただきました。
松本社長はリスクマネジメントの第一人者で、RMCA 保険リスクマネジメント研究会の会長を務められたり、2009年から現在までリスクマネジメントの連載を毎月継続されたりと、最前線を走り続けていらっしゃいます。
そんな松本社長に保険業界に携わるようになった経緯から、リスクマネジメントに目覚められた衝撃の経験、競争の激化する保険業界での経営の秘訣まで存分に語っていただきました。
松本 一成 氏
ARICEホールディングス株式会社 代表取締役
株式会社A.I.P 代表取締役
株式会社日本リスク総研 代表取締役
トラスト社会保険労務士法人 社員労務士
株式会社アリスヘルプライン 代表取締役
日本青年会議所保険部会 第31代 部会長
NPO法人 日本リスクマネージャー&コンサルタント協会 副理事長
RMCA 保険リスクマネジメント研究会 会長
リスクマネジメントに関する講演・連載・書籍・DVDなど多数
特にリスクマネジメントの連載においては、2009年から毎月記事を書いており、全54業種、建設から幼稚園まで幅広い業種をカバーしている。また保険会社の社員や代理店向けの研修を数多く担当し、イーラーニング等のコンテンツも提供。
Q: 現在は数多くのポジションでご活躍されている松本社長ですが、元々どのような経緯で保険業界に入られたのでしょうか。
元々、父が個人で保険代理店を経営しており、保険代理店という職業は理解していました。
海外で活躍できる人間になりたいという思いがあり、新卒で平成6年に三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行しました。
入行1年目で阪神淡路大震災を経験しました。銀行では困った人を助けるということに、限界があると実感しました。
2年目は三和銀行東京本社にある開設準備室で勤務しました。新規の顧客獲得のため一日に500軒を訪問するという過酷な状況でした。
体力が自慢だったのですが、あまりの過酷な業務に、新店舗のオープン前に道端で倒れてしまいました。
当時は担保至上主義で、どれだけ良い方でも力になれないことがあり、もどかしさを感じていました。
その後銀行でFPの勉強をさせて頂く機会があり、保険であれば困っている人の力になれるのではないかと感じ、安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)に研修生として入社しました。研修生になるにあたっては、募集人資格だけではなく、任意保険を扱うには社会保険等にも精通する必要があると思い、社労士資格も取得しました。
保険であれば困っている人の力になれるのではないかと感じ、安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)に研修生として入社しました。
2年ほどで保険代理店として独立したのが、保険業界に携わるようになった契機です。
Q: 松本社長はリスクマネジメントに注力されていますが、どういったキッカケがあったのでしょうか。
私は保険業界に入る前に社労士資格も取得していたのですが、社労士として顧客を訪問すると「先生」と呼ばれるのに、保険募集人として訪問すると「保険屋」と呼ばれました。
保険は非常に価値のある仕組みなのに、それを取り扱う保険募集人の地位が低いことに驚かされました。この頃から何とか保険業界をステータス高い、魅力ある業界にしていきたいと強く思い始めました。
そんな折、とある中小企業メーカーの社長に「本当にリスクマネジメントを極めたいのであれば、金融業という虚業だけでなく、実業を経験しなさい」というアドバイスをいただきました。
その社長は、”中小企業のことが本当に分かる士業の人を育てたい”という想いをお持ちでした。
ご縁を感じて、そのメーカーに入社させていただき、総務部長として工場の現場に入って安全管理をしたり従業員の採用をしたりと様々な業務を任せていただきました。
非常に充実した日々を送っていたのですが、ある日、悲しいことに労災事故が発生してしまいました。
なんと、自分が採用した若手社員が、旋盤加工の業務中に事故で亡くなってしまったのです。
この事故で、万が一のときの補償はもちろん大切ですが、事故の発生自体を防ぐことが何よりも大切だと気づきました。
保険をつかってリスクを移転する前に、そもそも事故が起きないようにすることでリスクを回避をすることが一番だと体感しました。
そして、改めてリスクマネジメントを一から勉強し直そうと決意しました。
それから、東京のとあるリスクマネジメントのコンサルティング会社でリスクマネジメントを学びはじめました。
当時は神戸に拠点を構えていたのですが、月の半分ぐらいは東京に来てリスクマネジメントを勉強する日々を続けました。
中小企業での実務経験、そしてリスクマネジメントを一から学んだ経験は、今でも活きています。
Q: 株式会社A.I.Pは募集人総勢100名ほどいらっしゃいますが、どのようにしてここまで大きくなられたのでしょうか。
保険業界の環境変化を見据えると、自社の存続・発展には時間的にもビジネスモデル的にも限界があると感じ、平成17年から支店制度を構築し、現在の形がスタートしました。
ガバナンスや品質に応じた適正な規模感があります。 規模を無理に大きくしたいとは思っていません。
弊社では3つの柱を常に意識しています。
①サービス品質
理念・価値観を共有し、ノウハウと価値を創造しています。
お客様からの紹介やリスク診断の実施状況、多種目販売率等を判断基準にしています。
②マネジメント品質
全社で共通システム・共通ルールをもち共通の品質を担保しています。
労働基準法を順守し、現在は年次有給休暇の取得率向上に力をいれています。
③マーケティング品質
常に新たな収益機会の創造を心がけています。
法人・生保の比率に目標値を定め、全支店の継続成長を目標としています。
これらの品質を追求していけば、必然的に売上・支店数・従業員数が増えていくと考えています。
また、全社的に経営計画の立案と実行を進めてきました。
全社計画・支店計画・個人計画を年次で作成し、結果を振り返る仕組みができてきました。
Q: 現在の保険代理店を取り巻く環境をどのように捉えていますか。
現在の保険代理店マーケットは、非常に厳しい環境にあると考えています。
ネット自動車保険の加入割合は約10%に達しています。
「まだ10%しかない」とも捉えられますが、「もう10%になった」とも捉えられます。
ネット損保は質も高まっており、事故発生時の現場急行サービスを提供する会社もあります。
保険代理店は現場急行していたら、とても労働基準法を守れません。
銀行は既存事業の利益率低下から、店舗やグループ会社での保険販売に注力しています。
更に、少額短期保険事業者も既に100社を超えています。
これからも他業界の大手企業が少額短期保険を設立するケースは増えていくことでしょう。
以前は、プロ代理店の競合は同じプロ代理店でしたが、今や銀行・他業界の大手企業やテクノロジーが競合になりつつあるわけです。
そして、家に来てほしいお客様は減っており、電話に出る人も少なくなっています。
少子高齢化もあり、車を買う人は減っています。
また、シェアリングエコノミーの時代となり、価値観も所有から利用へと変化しています。
あのトヨタですら、新車販売からサブスクリプションへと移行をはじめています。
総じて、ものすごい危機感をもっています。
この業界を良くしたいと思って東京に出てきましたから、こういった環境変化の中で求められる代理店像は何かというのを考え続けています。
Q: InsurTechについてはどのように捉えていますか。
先ほど述べたような、競争環境の変化や個人マーケットの縮小は15年前から予見できていました。
しかし、ここまでITが世の中に広まることは予想できていませんでした。
今後も、よりいっそうITが生活の中に浸透していくことでしょう。
ITによって、お客様の利便性が高まり、保険料も安くなるのであれば普及が進むべきだと考えています。
保険業界では「仕事がAIにとって代わられるのではないか」と脅威に感じている方が多いと思います。
ですが、ITは我々が抱えている膨大な紙書類の山や、事務の非効率な部分を解決してくれます。
ITは我々をサポートしてくれるツールという側面も持っています。
我々の保険募集人は、ITが介在することができない部分に価値をもたせなければなりません。
Q: 業界の大きな変化の中、今後どのような代理店が求められていくとお考えですか。
「品質で勝負をする代理店」だと考えています。
“数字が人格”と言われてきた業界ですが、量から質へとシフトしなければいけません。
単に保険を売れればいいというだけではなく、お客様を守るという本質的な目的を果たすために、最善の保険提案を行うと共に、金融機関としてのガバナンス体制を構築する必要があります。
きちんと1人1人がルールを守って安定的に活動し続けることが重要です。
また、個人から法人へのマーケットチェンジも必要でしょう。
そして、何よりリスクマネジメントに取り組むことが重要です。
顧客から見積もり依頼をもらって安い商品を提案するだけでは、他社とは差別化できません。
顧客の企業理念や業界の理解からはじめて、財務力の向上やリスクコントロールまで提案することが付加価値につながります。
Q: 採用・育成についての取り組みを教えてください。
保険業界を就職市場においても魅力的な業界にしたいという思いがあります。弊社においては、社員の若返りと組織の活性化のために若手の積極的な採用を行っています。やりがいがあり、魅力的な仕事であることをもっと広く伝えていきたいと思います。
一昨年は13~14名の新入社員が入社しました。最も多かった入社経路は、お客様のご子息や親戚等のご紹介でした。
お客様にご連絡するメールに社員の募集をいれたところ、多くご紹介をいただくことができました。
お客様へのサービス品質が高く、信頼性があることが形として表れ大変光栄です。
生保代理店はフルコミッション制度をとっている会社が多いかと思いますが、弊社は一般的な会社と同じ月給制です。
コミッションのために保険を販売するのではなく、お客様を守るためにリスクマネジメントの視点から適切な情報提供を行うのが仕事です。
育成については、教育研修システムを確立させています。
集合研修、WEB研修、e-learningシスムを組み合わせています。
e-learningのテスト内容は私が毎回作成をしており、必ず100点満点をとってもらうように徹底しています。
また、AIPスタンダード制度という形でキャリアステップも提示しています。
Q: 保険RM研究会について教えてください。
リスクマネジメントの考え方を広めて、業界を良くしていくために、保険RM研究会を運営しています。
オープンセミナー・講演会・メルマガなどによる情報提供をしており、定期研修会にて会員同士の交流ができるようになっています。
資格制度を設けており、リスクマネジメントを体系的に学べるようになっています。
25年間のリスクマネジメントの歴史が詰まったリスク診断ソフトも提供しています。
繰り返し申し上げている通り、これからはリスクマネジメントにしっかり取り組んでいかなければ保険業界で生き残るのは難しいでしょう。
しかしながら、日々の保険の更改業務に追われる中で、独力でリスクマネジメントの勉強を続けることは大変です。
また、自動車保険や火災保険は日々販売していても、利益保険のような特殊な保険は販売頻度が少なく、勉強する機会が少ないです。
そのため、保険RM研究会で、リスクマネジメントが学び切磋琢磨する仲間が集まる場所を提供しています。
Q: 最後になりますが、松本社長にとって「よい保険募集人」とは何でしょうか?
顧客の本当の満足がどこにあるかを見極められる募集人でしょう。
とりあえず沢山保険料払っているから安心、ではありません。 安い保険に入れたから満足、でもありません。
保険によって、企業価値がどう上がるのか、会社の品質がどう上がるのか、というところに目線をおいた営業ができる人が必要。
よい保険募集人が増えて、みんなで保険業界を魅力ある業界にしていきたいですね。
松本社長が経営されている保険代理店のリンクはこちら↓から。